乳がんになって5年 自分らしさを守る「アピアランスケア」 元SKE48の矢方美紀さんが語る

抗がん剤治療中には、爪の黒ずみに悩んだという矢方美紀さん。「いろいろ試して、濃い青色のマニキュアがちょうどよかった」という(飯田英男撮影)
抗がん剤治療中には、爪の黒ずみに悩んだという矢方美紀さん。「いろいろ試して、濃い青色のマニキュアがちょうどよかった」という(飯田英男撮影)

がん治療による外見の変化を補う「アピアランスケア」は、見た目だけにとどまらず、患者が安心して日常を送るための心のケアでもある。10月は乳がんの早期発見・治療を啓発するピンクリボン月間。乳がんになり、今も治療を続ける、元SKE48メンバーでタレント・声優の矢方美紀さん(31)も、悩んだ日々を支えられたという。

「ウィッグ ばれない 安い」

5年ほど前、スマートフォンの検索アプリに、矢方さんはこう文字を打ち込んだ。

25歳だった平成30年1月に乳がんと診断され、4月に手術で左乳房をすべて摘出。5月に抗がん剤治療を始めると髪の毛が抜け始めた。爪は黒ずみ、肌もくすんだ。

ウィッグ(かつら)も最初は合うものが見つからなかった。かぶると、ぶかぶか。夏は頭皮が蒸れ、においが気になった。汗拭きシートで頭皮を拭い、ウィッグに消臭スプレーをかけて使うと、抗がん剤の影響で敏感な頭皮がヒリヒリと痛んだ。

対策をネットで検索しては試し、また別の方法…と繰り返す中、知己のテレビ局員の紹介で出会ったのが、がん患者や要介護者らの美容や身だしなみを支援するNPO法人「全国福祉理美容師養成協会」(ふくりび、愛知県)の人々だった。

治療の日常、乗り切るために

「肌にあたって痛かったでしょう。ストレスだよね」。矢方さんのウィッグを手にしたふくりびのスタッフが、そう声をかけてくれた。

「主治医の先生と外見の悩みを話すことはない。『治療の二の次』とみられがちだけど実は、長い治療生活を乗り切るには、外見のケアは大切なこと」

がん治療には、体の変化や不調が伴うことがある。一方で、術後は普段の日常に戻り、治療をしながら家事や仕事をこなす人も多い。

社会生活の輪に戻ると、外見の変化が周囲の人にどう映るか気になる人もいる。矢方さんも、ウィッグがばれないか、においは大丈夫かと「気をつかうことが多くなっていた」。

しかし、ふくりびの支援で、かぶり心地がよく似合うウィッグが見つかると、次第に気持ちや行動が変化した。

ウィッグの上から帽子をかぶる「防衛」(矢方さん)をやめた。首元の詰まった服を選んでいたのをやめ、シースルーの服も楽しむようになった。「今は自然に自分に向き合えているのかな」と話す。

アピアランスケアは、がん治療中も臆せず、いつもの自分らしくいるための工夫だ。矢方さんは今も薬を服用。その副作用で大量に汗をかくこともあるが、「それも普通の日常」と受け止めている。今では相談に乗ってもらった「ふくりび」に理事として携わり、忙しい毎日を送っている。(津川綾子)

資生堂が昨年、がん罹患(りかん)経験者を対象に行った外見の変化にまつわる調査(日本など8カ国、1350人)では、9割の人が治療後、外見に変化があったと答え、8割がアピアランスケアの必要性を感じていた。また4割の人が外見変化の影響で日常生活の不安を訴え、3割が物事に消極的になった、と答えた。

中でも知られるのが、抗がん剤による脱毛の悩みだ。矢方さんが携わる「ふくりび」は、がん治療中あるいはこれから治療するという患者を対象に、医療用ウィッグを抽選で15人に寄贈するキャンペーンを、FWD生命保険の支援で行う。

申し込み締め切りは11月10日。応募はNPO法人「全国福祉理美容師養成協会」ホームページ( http://www.fukuribi.jp/wigkizo2023/ )の申し込みフォームから。

元SKE48・矢方美紀さん「私の人生は病気だけじゃない」

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